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東京地方裁判所 昭和43年(ワ)12806号 判決 1969年5月24日

破産者珍味堂東京珍味食品株式会社破産管財人

原告 小幡正雄

被告 北海道漁業協同組合連合会

右代表者代表理事 川端元治

右訴訟代理人弁護士 田村武夫

主文

被告は原告に対し五八〇万四六四二円およびこれに対する昭和四三年一一月九日から完済まで年六分の割合による金員を支払え。

被告は原告に対し別紙手形目録(四)記載の約束手形を引渡せ。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は仮に執行することができる。

事実

一、請求の趣旨

主文同旨。

二、請求の趣旨に対する答弁

原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。

三、請求の原因

(一)  訴外珍味堂東京珍味食品株式会社(以下破産者という)は昭和四三年四月八日不渡手形を出してその支払を停止し、同年五月一〇日訴外株式会社富士ハム外二社から破産の申立(東京地方裁判所昭和四三年(フ)第一六七号事件)を受け、同年七月一七日午後一時同裁判所において破産宣告を受け、同時に原告は右破産管財人に選任された。

(二)  破産者は、これよりさき被告から継続的に海産加工品を買受けこれを他に売却していたものであり、そのうち昭和四二年一〇月中旬から同四三年三月二六日までに買受けた商品の買掛代金債務(以下本件買掛金債務という)を被告に対し負担していたが、右取引の代金支払確保のために自己振出の約束手形を交付するという定めにしたがい、昭和四三年一月三一日から同年三月二二日までの間に本件買掛金債務のうち昭和四二年一〇月中旬から昭和四三年二月中旬までの分の代金の支払確保のために、別紙手形目録(一)記載の約束手形九通額面合計五六六万四三二〇円を被告に振出交付していた。ところが、破産者は右支払停止の日である昭和四三年四月八日の前三〇日内である同年三月二八日頃自己がその販売代金の支払のために商品売り渡し先から譲渡を受けて所持していた別紙手形目録(二)記載の約束手形七通額面合計三八三万〇二四二円および同じく同年四月二日頃右同様所持していた別紙手形目録(三)記載の約束手形九通額面合計三一九万五〇六一円(以下右手形目録(二)および(三)記載の手形一六通を新手形と総称する)を、それぞれさきに振出交付してあった破産者振出にかかる別紙手形目録(一)記載の約束手形九通(以下これを旧手形という)と差替えてこれを被告に裏書譲渡した。しかしながら、破産者のなした旧手形との差替えのためにした新手形の裏書譲渡行為は、本件買掛金債務の支払に代えてなされたものであるから破産者の義務に属しないものであり、かりにそうでなく右債務の支払のためになされたものであるとしても、破産者を手形上の唯一の義務者とする旧手形と破産者以外に手形上の義務者の存在する新手形とを差替えることは、担保の供与でありかつこれは破産者の義務に属しないものである。

(三)  よって原告は破産者のなした新手形の裏書譲渡行為を否認し、破産法七二条四号に基づき破産財団に属する右手形の返還を求めるものであるが、新手形中別紙手形目録(四)記載の二通(これは同目録(二)記載の7および同目録(三)記載の9に該当する)を除くその余の手形は、既に被告において各満期に支払受領済みでこの手形債権は消滅しているので、これらについてはこれが原状回復としてその手形額面の合計金五八〇万四六四二円の損害賠償とこれに対する本件訴状送達の翌日である昭和四三年一一月九日から完済まで商事法定利率の年六分の割合による遅延損害金の支払を求めるものである。

≪以下事実省略≫

理由

原告主張の請求原因事実中、新手形が破産者の被告に対して負担していた本件買掛金債務の支払に代えて破産者から被告に裏書譲渡されたという事実を除くその余の事実は、当事者間に争いがなく、右除外事実については本件について取り調べた全証拠に依ってもこれを認めることができない。

とすると、被告は、破産者から同人が支払停止をした昭和四三年四月八日の前三〇日内である同年三月二八日頃に、第三者振出破産者受取りに係る新手形の内別紙手形目録(二)記載の約束手形七通を、同じく同年四月二日頃に新手形の内別紙手形目録(三)記載の約束手形九通を、それぞれ同人の被告に対して負担していた本件買掛金債務の支払のために裏書譲渡を受けるのと引換えにさきに破産者から本件買掛金債務の一部(昭和四三年二月中旬までの分)の支払のために振出交付を受けていた旧手形を破産者に返還した、という事実は全部当事者間に争がないことになる。

ところで、既存債務の支払のために複名のいわゆる商業手形を債務者が債権者に裏書譲渡する行為は、特段の事情のない限り、右手形を既存債務支払担保のために譲渡担保に供したものと解するのが相当である。そして、右特段の事情の認められない本件においては、新手形(新手形が商業手形であることは当事者間に争がない)の裏書譲渡行為は、破産者が被告に対して負担していた本件買掛金債務について被告に対し譲渡担保としてこれを裏書譲渡したものと解すべきであり、本件新手形の裏書譲渡は、旧手形返還の有無に拘らず、破産法七二条四号にいう担保の提供と称するを妨げないしまた当事者間に争のない前記請求事実および≪証拠省略≫に照らすと、右新手形裏書譲渡行為が破産者の義務に属していなかったことが明らかである。

そして、右認定事実によれば、債権者たる被告は、右新手形譲受当時、これにより破産的平等弁済を害することを知っていたものと推認を覆すことはできない。

以上によれば、原告の本訴請求は理由があるからこれを正当として認容し、民訴法八九条、一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 安藤覚 裁判官 尾崎俊信 清水悠爾)

<以下省略>

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